ピンホール写真で作品を残すには

 ピンホール写真/カメラの特徴としては、①近傍から遠方まで全体にピントが合って、コントラストが弱い。(ソフトフォーカス)②超広角の撮影が可能③長時間露出(動くものは写らない)などがある。これらの特徴を活かした作品を作るには、中判以上のフィルム写真/カメラが、解像度も上がり、階調も豊かで最適と思われる。

 35mmカメラが適さないのは、フランジバッグが30mm程度あり、超広角を得ることが難しいからだ。超広角を得るには、凹みレンズの工夫が必要となる。28mmの普通の画角だと、ぼやけた写真ができるだけで発展性がない。同様の理由で、デジタルカメラも適さないことになる。デジタルカメラではASA値を上げて、短時間の露光で撮影することができるが、長時間露光の利点を活かさないことになる。少し前までは、カメラキャップにピンホールをあけたレンズも市販されていたようだが、たぶん上記理由で、今は製造終了しているようである。またピンホールにより、CCDにゴミが付着する問題もあるようだ。しかし、ストリートスナップなどでは、抽象的な表現となり、また人物が特定できないなど、現代の肖像権の問題をクリアできる表現方法ではある。ただ、大きなフィルムを使った解像度の高いピンホール写真とは別な世界だ。

 あと、市販品を買うか、自作するかについては、ホルガを改造する場合でも合計で1万円程度のカメラ、材料や工具が必要。市販品は2万円程度から。原理を知るには自作も大事だけれど、作品を残すことが目的であれば、長期間使用できる焦点距離が25mm前後の市販品が便利だ。また、ホルガには光線漏れ等の固有の問題もある。ピンホールカメラは空き缶などを利用して作ることもできるが、ある程度ピンホールカメラの構造の理解が必要だ。

 ピンホール写真の良さに惹かれた人たちは2000年前後から作品を作り始めてきているが、スマホで誰でも簡単に高画質の写真を撮ることができ、また、ガチガチの高解像度の写真が嫌われるようになった現在、ピンホール写真/カメラを試してみるのもよいのでは。時間を撮れるピンホール写真は、民俗、歴史、地方の風物などを記録するのに適した方法とも考えられる。

【追記】 ピンホール写真家の田所美恵子さんの「About my Pinhole Photography」を読むと、針穴写真にはレンズのような解像度は期待できないので、よりシャープな画像を得るためには、なるべく大きなフィルムが望ましいためカメラが大きくなり、屋内の静物には8×10、屋外での撮影には4×5の手作りカメラを使うとあります。写真家のシャープなピンホール写真の秘密は4×5のネガにあったわけです。

 高い建築物を近距離で撮影するためには、大判カメラにあるような、シフト(ライズ)の機能が必要だ。ピンホールカメラでは、穴をセンターより上側にあける必要がある。こうすることで、カメラを上に見上げたことと同じ効果がある。何cm上にあけるかは、焦点距離との関係になる。例えば45°見上げるには、焦点距離とおなじ分だけ上にあける。同様に下にあけた場合には、カメラを下に向けたのと同じ効果になる。市販品の場合の問題はこのシフトした穴をあけたものが少ないことだ(RSSとONDUの一部のみ)。自作の場合、最初から考えておけば簡単につけられるメリットがある。同様に左右に穴をあけることで、右や左を制限した写角で撮れる。(ただし、横の穴は、基本は横アングルでの撮影用だ。)市販品でのライズの角度は30°~40°程度のようだ。焦点距離20mmで15mm前後、50mmで35mm前後。

 ピントに関しては、カメラから10cm先のものと、10m先のもの、100m先のものが同等のピントがきていることになる。レンズで近傍のものを撮ったときには、遠方のものはぼやけて見えるので、ピンホールでは違った表現ができることになる。