フィルム写真は永遠に

 フィルム写真が終わるといわれ始めたのは2000年台始めにディジタルカメラが急速に普及し始めた頃だった。2010年頃にはCM広告のスポンサーがネガ現像代などを必要経費として認めなくなって、プロのカメラマンはほぼディジタルカメラに移行した。そして、Kodakの価格戦略でフィルムが高騰した2020年以降ではとどめを刺されたかとも思われたが、それでもフィルム写真市場は続いている。最近Kodakは35mmシネマフイルムの一般人への販売を世界的に禁止した。逆に、そうしなければいけないほど、フィルムで撮る写真人口は多いということだ。

 フィルム写真の寿命の話は石油の寿命の話と似ている。1960年代にはすでに、20年先には石油は無くなると言われていたが、半世紀たったいまでは、さらに寿命が伸びている。結局、市場の需要がある限り、価格が上がっても無くなりはしない。代替えのものが出てきて、初めて無くなることになる。電気自動車も、現状ではガソリン車の代替えとはみなされていない。なので、石油の需要はつづく。

 写真の世界でよく分かるのが、レンズ付きのデジタルカメラだ。これはスマホのカメラ機能と競合し、敗れ去った。レンズ交換式デジタルカメラはまだ生き残っているが、往年のフィルムカメラの販売台数に比べると数分の一の規模だ。結局、デジタルカメラは、新製品が出ることもないフィルムカメラを駆逐することは出来なかった。挙句の果てには、高画質化が行き着くところまで行ってしまい、フィルムの質感に似せるという邪道に走っている。これはそれぞれのフィルム特有のノイズ(粒子)を加える一種の低画質化であり、デジタルカメラがフィルム写真に白旗を揚げたのと同じだ。昨今の中古カメラ市場の値上がりはそれを反映しているのだろう。

 また、フィルム価格の暴騰に負けず、レンズ交換式デジタルカメラの価格高騰も中古フィルムカメラ市場の拡大に協力しているのだろう。10数年前と比べてレンズ交換式デジタルカメラの販売台数は約1/3だ。にもかかわらず出荷金額はほぼ横ばい。すなわち、デジタルカメラの単価が10年で約3倍になってしまっている。2000年代ではまだ10万そこそこで買えた入門用が20万近くになり、高級機は100万近くもする。しかも、販売戦略で2~3年で新機種に交代するので、すぐに型落ちの憂き目にあう。これでは半世紀以上生き延びてきて、この先も使えるフィルムカメラに対抗することはできない。当然、価格の面で若年層は購入することは出来ないから、デジタルカメラユーザも増えない。技術的にはいろいろあるかもしれないが、一般ユーザが、スマホのカメラ機能で満足できない場面はほぼ無いのではないか。カメラ産業はこれからも撤退するメーカが続く、典型的な斜陽産業だ。一時期流行っていた動画用カメラも、スマホに食われて今はほぼ聞かない。

 写真が発明されても、絵を描く人は多くいた。デジタルカメラの限界が見えてしまった現在、フィルムカメラで撮り続ける人は減らないだろう。その需要がある限り、市場は続く。実際資本さえあれば、フィルム生産はどこでも作れるローテク産業だし、1970年代までの電子シャッターを使っていない機械式カメラは、修理が可能でほぼ壊れない。フィルムの値段が上がったとしても、個人の写真は登場した時点から、しょせん道楽なのだ。道楽ができる人にだけに許された趣味だ。それでも、近い将来、街のDPE写真屋さんはほぼなくなり、大手しか残らないだろうから、安くあげるためには、自分で現像スキャンできることが大事だろう。