ピンホールカメラはいつから映像表現の世界に?

 ピンホールカメラは現代のカメラの初期段階のものであり、WEBではそのような紹介がされている。しかし、半世紀前(今も?)にはピンホールカメラは子どもの遊び道具にしか考えられていなかった。ではいつからピンホールカメラが映像表現の世界に現れたのか?

 例えば小室三喜雄のピンホール俱楽部(閉鎖)には「ピンホール写真は年20前から作品表現の時代に入っています。」とある。なので、ピンホールカメラが映像表現に用いられ始めたのはたぶん1990年代ごろからということになる。これはデジタルカメラの導入の時期とほぼ重なり、一見矛盾している。しかし、デジタルカメラのフィルムサイズ(35mm of APS-c)を考えれば矛盾はない。35mmサイズのカメラのフランジバックでは超広角の画角は得られないからだ。中判や大判フィルムを用いるピンホールカメラでは35mmフィルム換算で15mm程度の超広角表現が普通にできてしまう。

 英国では風景写真家のSteve Goslingがピンホールカメラを使った写真集「Lensless Landscapes」を2008年に出版している。小室三喜雄氏がピンホールカメラの販売を始めたのもこのころだ。ピンホールカメラは映像表現の手段として一部写真家に広がっていったと思われる。

 ではなぜ一般に知られていないのか? これは、カメラが大企業の商業ベースに乗らないからだろう。レンズが不要で原価としては数千円しかかからないし、需要も見込めない。写真工業会から外れたところで、ほそぼそと手作りされているのが現状だ。なので、メディアへの露出が少なく、一般人には知る機会がない。また、2010年頃に広告主の企業が写真家に対してフィルム費用を経費として認めなくなったので、商業写真家も商業写真にピンホールカメラを使うことはない。

 一部の写真家が個人的な写真活動をピンホールカメラで行っているのが現状だろう。しかし、デジタルカメラもスマホにその座を奪われ、行き着くところまで行ってしまった高解像度が嫌われ、「フィルムの再現」とかおかしなことになっている現状では、アナログ再生としてピンホールカメラは広がっていく可能性はある。